全国の吹奏楽ファンから熱狂的な人気を誇る樽屋雅徳氏の作品。
中でも『マードックからの最後の手紙』は、そのストーリー性の高さや樽屋作品独特のカッコ良さ、そしてスケールの大きさが魅力の楽曲で、各種演奏会やコンクール自由曲などでもよく演奏されています。
今回は、その『マードックからの最後の手紙』について、通常版/特別版/小編成版の3種類の楽譜の違いや、それぞれのおすすめ演奏動画にも触れながら、ご紹介していきます。

「マードック」の3種類の楽譜って、どうやって選べば良いの?

そうね。版によって編成や難易度も異なるのかしら?
はい。では、早速始めましょう!
《解説》『マードックからの最後の手紙』
作曲家・樽屋雅徳氏や『マードックからの最後の手紙』をよく知らない方のために、簡単にご紹介しておきます。
樽屋雅徳氏はどんな作曲家?
樽屋雅徳氏は、1978年生まれ、武蔵野音楽大学音楽部作曲学科卒業の作曲家・編曲家です。
今回ご紹介する『マードックからの最後の手紙』の他にも、
『マゼランの未知なる大陸への挑戦』
『斐伊川に流るるクシナダ姫の涙』
『絵のない絵本』
など数々のヒット作品を生み出しており、吹奏楽ファンから絶大なる人気を集めています。
『マードックからの最後の手紙』はどんな曲?
『マードックからの最後の手紙』は、豪華客船「タイタニック号」の一等航海士であるW.M.マードックと、タイタニック号の沈没事故をモチーフとして、樽屋雅徳氏によって作曲されました。
まるで映画音楽を思わせるような壮大な音楽が魅力の1つで、多くの吹奏楽ファンから広く支持されています。
「通常版/特別版/小編成版」とは何か?
楽譜は、「通常版(原典版)」「特別版」「小編成版」の3種類が出版されており、それぞれ編成や難易度(グレード)などに違いがあります。
具体的には下表のとおりです。
出版年 | 編成 | グレード | 委嘱元 | |
通常版 | 2009年 | 中~大 | 3+ | 土気シビックウインドオーケストラ |
特別版 | 2011年 | 中~大 | 4 | 花咲徳栄高校 |
小編成版 | 2015年 | 小 | 3+ | - |
それぞれの版ごとの音楽の違いについて、演奏音源ととともに見ていきましょう。
演奏音源
では、ここで音源をご紹介します。
今回は、以下の3種類の演奏音源をご紹介します。
①「通常版(原典版)」
②「特別版」
③「小編成版」
後ほどその違いについても触れていますので、宜しければ聴き比べいただければと思います。
①「通常版(原典版)」の演奏
まずは、「通常版(原典版)」からご紹介します。
ご紹介する演奏動画は、龍谷大学吹奏楽部による演奏です。さすが全国レベルの楽団だけあって、熱演だと思います。
「通常版(原典版)」が後にご紹介する「特別版」と異なる点は、
- ハープがないこと
- 中間部(この動画では3:30頃~)がシンプルな構成になっており若干難易度が低めになっていること
などです。
<演奏:龍谷大学吹奏楽部>②「特別版」の演奏
次に、「特別版」の演奏音源をご紹介します。「特別版」が「通常版」と異なるの点は、
- ハープがあること
- 中間部(この音源↓では3:30頃~)が複雑で若干難易度が高くなっていること
などです。
<演奏:海上自衛隊東京音楽隊>どうでしたか? 中間部の違いは分かりましたか?
やはり、ハープが入っている分、上品で華やかな印象が加わっていると思います。また、難易度も高くなっていることが分かります。
③「小編成版」の演奏
最後に、「特別版」の演奏音源をご紹介します。
お聴きいただくとお分かりいただけると思うのですが、意外にも、約20人で演奏しているとは思えないほど密度の濃い演奏になっています。
これは、少人数でも演奏できるようにとの想いを込めて編曲された樽屋雅徳氏の凄さと、演奏者である土気シビックウインドオーケストラの演奏力の両方によるものだと思います。
<演奏:土気シビックウインドオーケストラ>編成と難易度(グレード)
それぞれの版ごとの編成と難易度(グレード)は、下表のとおりです。
編成上の主な違いは、特別版には、
- ハープがあること
- 中間部が複雑であり難易度が比較的高いこと
などが挙げられます。
また、小編成版には、
- ダブルリード楽器(オーボエ、ファゴット)やEbクラリネット、コントラバスがないこと
- 管楽器の3rd以下がないこと(クラリネット、トランペット、ホルン、トロンボーン)
などが挙げられます。
通常版 | 特別版 | 小編成版 | |
編成 | 中編成(34人~) | 中編成(35人~) | 小編成(21人~) |
グレード | 3+ | 4 | 3+ |
Piccolo | ● | ● | ●(Fl.2) |
Flute 1 | ● | ● | ● |
Flute 2 | ● | ● | – |
Oboe | ● | ● | – |
Bassoon | ● | ● | – |
Eb Cl. | ● | ● | – |
Bb Cl. 1-2 | ● | ● | ● |
Bb Cl. 3 | ● | ● | – |
Bass Cl. | ● | ● | ● |
A.Sax 1-2 | ● | ● | ● |
T.Sax | ● | ● | ● |
B.Sax | ● | ● | ● |
Trp. 1-2 | ● | ● | ● |
Trp. 3 | ● | ● | – |
Hrn. 1-2 | ● | ● | ● |
Hrn. 3-4 | ● | ● | – |
Tb. 1-2 | ● | ● | ● |
Tb. 3 | ● | ● | – |
Euph. | ●(div.) | ●(div.) | ● |
Tuba | ● | ● | ● |
St. Bass | ● | ● | – |
Timpani | ● | ● | ● |
Perc. 1 | ●(Tri. / C.Cym. / S.Cym. / Glock.) | ●(Tri. / C.Cym. / S.Cym. / Glock.) | ●(Tri. / Cym. / Bodhran or Tenor Drum / Glock.) |
Perc. 2 | ●(B.D. / Bodhran) | ●(B.D. / Bodhran) | ●(B.D. / Tamb. / Ships Bell / 4Tom-toms / S.D. / Vibra.) |
Perc. 3 | ●(Tamb. / Ships Bell / Tom-toms / S.D. / C.Cym.) | ●(Vibra. / B.D. / Glock.) | – |
Perc. 4 | ●(Vibra. / B.D. / Glock.) | ●(Tamb. / Ships Bell / Tom-toms / S.D. / C.Cym.) | – |
Piano | ● | ● | ● |
Harp | – | ● | – |
引用元・参考文献:フォスターミュージックHP
打楽器Bodhran(バウロン/ボーラン)とは?
『マードックからの最後の手紙』には、Bodhran(バウロン(ボーラン))という聞き慣れない名前の打楽器が登場します(以下「バウロン」)。これはどういう楽器なのでしょうか?
バウロンはアイルランドの民族楽器
バウロンは、アイルランド音楽で使用される民族楽器で、片面張りの太鼓の一種です。
大きさは大小さまざまですが、外見的にはタンバリンの「小さなシンバル」を取り外して大きくしたような形状をしています。
奏法が特殊で熟達した技術が必要
バウロンを片手で持ち、もう一方の手でバチを用いて演奏します。
バチは一本で、その中ほどを持って手首を左右にひねる要領でバチの両端を用いて叩きます。
言葉ではイメージしにくいと思うので、演奏動画をご紹介します(演奏:Kenji Kaminuma氏)。
凄いですよね。かなり熟達した技術が必要そうです。
別の楽器で代用できるか?
ボーランは、その楽器の性質上、吹奏楽で求められる音量を出すことが難しいこともあり、フロアタムで代用されることが多いようです。
パーカッションパートの皆さん、是非いろいろ試して良い音色を探求してみてください。
コンクールでの採用実績は?
以下は、県大会における採用実績です(小・中・高・大・職一部門の合計)。
2009年に6団体が初めてコンクールで演奏し、2016年に104団体が演奏したのをピークに、その後は徐々に減少傾向にあります。
また、全体の半数近くが小編成で演奏されているのも特徴的です。小編成版の楽譜が出版されていることも人気の理由の1つだと思われます。
中学校での採用が多いのですが、高校や大学などの部門でも演奏されており、幅広く長く人気が続いていることが分かります。
⇒吹奏楽コンクールデータベース「Musica Bella」へのリンク(外部リンク)
楽譜のご紹介
楽譜についてご紹介しておきます。
『マードックからの最後の手紙』の楽譜は、執筆時点では、全てレンタル譜となっており、販売はされておりません。
レンタル譜は、3つの版のいずれも、出版社のフォスターミュージックHPにて申し込みが可能です。
おすすめCDのご紹介
おすすめのCDを1枚ご紹介します。
このCDは、『マードックからの最後の手紙』の他に、『マゼランの未知なる大陸への挑戦』や『絵のない絵本(改訂版)』なども含めて合計9曲の樽屋作品が収録されているので、とてもお得だと思います。
いかがでしたか?
皆さんは、どの版の「マードック」がお好みですか?
実際に版を選ぶ際は、バンドの編成(人数)やハープの有無、難易度などの各種事情を考慮して決めるのが良いと思います。
『マードックからの最後の手紙』を演奏される皆さん、ぜひ良い演奏をなさってください。
では、また次回の記事でお会いしましょう!